中古レコード店店長の
経営ブログ

中古レコード、CDの買取や販売について、また日々の経営について、考えたこと、伝えたいこと、などいろいろ書いていきます。月に1~2回、更新していく予定です。

なんと!万引き常習者の「人相書き」が古書店で出回っていた。意外に多い中高年万引き常習者に、どう対応する?

更 新:2023-04-17
テーマ:中古レコード店の経営

中高年の万引き常習者に対する、適切な対処法とは何か?さらに持ち込まれた盗品をうっかり買取してしまった中古店は、どうしたらいいのかについて、詳しくご説明する。


<目次>
❶古書店で見た万引き常習者の人相書きに、びっくり!
❷持ち込まれたものが、盗品の疑いあり!店はどうする?
❸意外と多い、高齢の万引き常習者!
❹知らずに盗品を買ってしまった中古店が、処罰されることはないのか?
❺買取した盗品は、元の持ち主に返さなければならないか?
❻素直に返品に応じる中古店は、はたしているのか?
❼まとめ。防犯と業界ネットワークの有無。
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❶古書店で見た万引き常習者の人相書きに、びっくり!
かなり前の話。仲間であるR書店に立ち寄ったときのことだ。「田中さん、この人、そちらの店には行ってませんか?」 ご主人がそう言って差し出したのは、なんと1枚の人相書きだった。 古書組合のほうから回ってきたというその人相書きには、筆ペンで書かれたと思われる老人の顔が。お世辞にもうまいとは言えない似顔絵だが、70代のしょぼくれたおじいさんであることはわかる。ご主人によると、その男性は某新刊書店で 万引きの現行犯で逮捕され、現在は収監中だという。 高齢者ながら、万引き常習犯。新刊書店から高額な本を万引きしては古書店で売って生活していた人だったようだ。

人相書きを見て、私は驚いた。心当たりがあったのだ。 その2か月ほど前。しょぼくれた風貌のおじいさんが、当店に本を売りに来たことがあったのだ。本は風呂敷に包んで持ってきていた。量は少ないながら、かなり高価な本だ。二度きて、合計十数冊で約8000円ほどで買い取った。 よぼよぼした風貌に不釣り合いないい本だったので不思議だったが、あのおじいさんこそが、この人相書きの人物ではなかったのだろうか?もちろん、万引き常習者とは夢にも思わなかったが・・・

❷持ち込まれたものが、盗品の疑いあり!店はどうする?
R書店のご主人の表情が、どうもさえない。 「実はこの人、実は最近までうちによく売りに来てたんですよね・・」 店主は、本棚の一角を指さしながら、重たい口調で言った。 「あの棚ですけど、アレ、全部あの人から買った本なんですよ」 見ると、そこには学術書などのすごい本が、びっしりまとまって入っていた。300冊近くありそうだ。 長い間、継続的に買取していたことが見て取れた。 しかし、疑惑がある以上、買取は断らざるをえない。下手をすると、こっちが危ない。

「でも・・そのとき、相手のおじいさんには何と言って断ったのですか?‥盗品の疑いがあるから、もう買取できませんよって?」私は、突っ込みを入れてみた。 するとご主人はかぶりを振って、「いやいや、盗品とは言ってなくて・・『事情があって、もうお客さんからは買取できなくなった』と言ったんです。そうしたら『どうしてですか?』と訊いてきたので、『理由は言えないんですけど、もうお客さんから買うわけにはいかなくなったんですよ』 と言って、今後の買取は、いっさいお断りしたのです」と話していた。

ご主人の人柄を感じさせる、丁寧でうまい対応である。私なら、もっとつっけんどんな言い方になったに違いない。そのおじいさんが、某新刊書店で万引きの現行犯で逮捕されたとの連絡がご主人の耳に入ったのは、それから間もなくのことだという。

私は考えた。その人と当店にきたあのおじいさんとは、やはり同一人物だ。風貌もそうだし、風呂敷で本を包んでくるなどの特徴もすべて一致した。

❸意外と多い、高齢の万引き常習者!
これまでの話を、時系列的に整理してみる。 まず、古書組合(または有力古書店)が、おじいさんを要注意人物としてマーク、人相書きが各店舗に配布された。(不審に思ったどこかの店が、おじいさんの犯罪歴などを警察に問い合わせた可能性がある) それを受けて、長年買取していたR書店はおじいさんからの買取を拒否。困ったおじいさんは売り先を変え、当店に盗品を持ち込んだ。人相書きのことを知らなかった私は、それを買取してしまった。 その後、市内新刊書店で万引きが発覚、現行犯逮捕。私がR店で話を聞いた時点では、すでに収監中だった。

この人は、 長年の万引き常習者で前科者。刑務所と自宅の行ったり来たりの暮らしをしている人だったのだ。 何とも哀れで侘しい話だ。 万引き常習者には高齢者が多い、というのは、今は常識だが、当時は私も万引きは中高生がするものだと思い込んでいたから、大いに驚かされた。

❹知らずに盗品を買ってしまった中古店が、処罰されることはないのか?
ところで、盗品をうっかり買取してしまった店は、その後どうなるのだろうか。処罰されることは、ないのだろうか? また、買取した盗品は元の持ち主(新刊書店)に返さなくてもいいのか?という疑問も出てこよう。それらについてご説明したい。

まず、最初の疑問についてだが、 盗品と知らなかった場合は、店が罪に問われることはない。(民法) 私もR店も、痩せてヨボヨボした、あのおじいさんが、まさか万引き常習者だとは、夢にも思わなかった。(万引きするための反射神経は、かけらも持ち合わせてないように見えた) 身分証の確認もしっかりやっており、 店の落ち度は何もない。 ただし、盗品だとわかってて買取したら罪になる。たとえ知らなかったにせよ、疑わしいという認識があったのなら、やはり罪になるようだ。(ただし、立証は難しい)そして、こういう違反を繰り返すと、 当然ながら、古物商免許は取り消しになるのである。

ご存じの方も多いと思うが、 古物商の営業が、警察の管轄になっているのは、盗品や違法品(銃や違法薬物など)が売買されることを防ぐためだ。中古店が犯罪の温床になるべきではない。 買取のさい、身分証を確認するというのは、そういう理由である。
(※原則1万円以上から、身分証の確認は必要になる。ただし、本・CD・DVDについては、金額に関係なく、確認が必要である。レコードについては、1万円未満なら確認の義務はないが、警察からは確認することを奨励されている)

❺買取した盗品は、元の持ち主に返さなければならないのか?
二つ目の疑問。知らずに盗品を買取してしまった場合、元の持ち主に返す義務はあるのか否か、だが、 法的には、元の持ち主が返してくれと言ってきた場合は、1年以内だと無料で返さなければいけない。 (ただし、1年を超えて2年以内なら、持ち主に 買取金額を賠償してもらえる ことになっている。さらに、2年を過ぎたら 時効 となり、返す義務はなくなる)

では、先の例の場合、どういうことになったのか。元の持ち主である新刊書店は、結局なにも言ってこなかった。(正直、ホッと胸をなでおろした)盗まれた多量の本を返品するのは、実はかなり大変なことなのだ。

なぜ、難しいのか?

元の持ち主の新刊書店は、盗まれた日付と本のタイトルがわからなければ、相手に返還要求はできない。 だから、万引きされた本が何だったか、きちんと特定する必要がある。だが、これは難しい。中古店側にしても、何というタイトルの本が盗まれたのかも分からないのに、ただ返してくれ!と言われても、返しようがないのである。

本来は、持ち主が盗まれた本のリストを用意したうえで、中古店にわざわざ足を運び、それがあるかどうか、自分の目で確認する必要がある。(後で述べるが、手紙や電話で連絡するだけだと、うまくいかない可能性大)リストを作る作業はけっこう大変だ。何が盗まれたのかまではわからない、ということが普通だからだ。結局、多くの場合、この段階で諦めざるをえなくなる。

たとえ、タイトルが判明し、苦労してリストを作り、中古店に足を運んで交渉したとしよう。しかし、なんだかんだ言われて、結局、返してもらえないかもしれない。なぜかというと、 盗まれた本に、元の持ち主の名前が書かれているわけではないからだ。たとえ同じタイトルの本があったとしても、それだけでは確たる証拠にはなるわけではない。それが持ち主を名乗る人のものかどうかということは、結局のところ、はっきりわかるわけではない。だから、警察からの詳細な情報がない限り、持ち主らしき人が現れて、「これはうちで盗まれた本ですから返してくれ」と言われても、中古店としては、はたして返していいのかどうかはわからない。もしかしたら、犯人が複数の店から同じような本を盗んでいるかもしれないし、持ち主という人が、嘘をついている可能性だって捨てきれない。

新刊書店側は、タイトルが不明だった場合でも、「概ね、こういう種類の本が何冊ぐらい盗まれているから、返してほしい」と、ダメもとで中古店に取り合えず言ってみる、という手はあるだろう。中古店の善意に期待するのである。確かにこれだと楽だ。しかし、これで返してくれる中古店は、ほとんどないだろう。世の中、そんなに甘くはないのだ。

❻素直に返品する中古店は,、はたしているのか?
仮に、警察のお墨付きで、間違いのないリストを作成し、返還請求をしたとしよう。しかし、それでも海千山千の猛者の多い中古の店主達が、大人しく応じるとは限らない。法的には、返さなければいけないはずであるにもかかわらず、どうして返還を拒否できるのだろうか?

実は、それが、簡単にできてしまうのである。 「もう全部売れてしまったから、一冊も残ってない」と言ってしまえば、返さなくていいのだ。

「な~んだ!・・そんなことか」と思われたかもしれない。まさにコロンブスの卵だ!売れてしまったと言われたら、持ち主も諦めるしかない。こんな抜け穴が実はあったのだ。(中古店は、電話や文書で返還請求された場合は、こう言ってからすぐに、盗品を隠してしまうに違いない。)

たかが本ではあるが、 個人で細々商売をしている古書店の店主にとっては、身銭を切って苦労して買取した本だ。タダでは返したくないと思うのは、当然であろう。

お金の問題だけではない。 店主は、値付けを調べたり、きれいに汚れを落とすなどの作業をしている。手間暇かけて、ようやく店頭に出したものをタダで返せと言われたら、腹がたつのは当然だ。 第一、万引きは盗まれるほうにも大きな責任がある。 それなのに、弱者とも言える個人店舗の中古店側が、一方的にとばっちりを受けバカを見るのは、とうてい納得できるものではない。

❼まとめ。防犯と業界ネットワークの有無。
話を「人相書き」にもどすが、そういうものがこの現代に本当に存在したことに驚かれたであろう。その防犯効果はバツグンだ。さらに、買取したものが盗品だった場合、中古店はどういうことになるのかについても、詳しく書いた。ただ、「人相書き」という手法は、組合がなく、横のつながりが希薄な札幌の中古レコード業界では、使えないかもしれない。(札幌の中古レコード専門店は、1990年以後の店が多く、比較的新しい業界であることが原因してると思う)

防犯上、横のネットワークは、絶対あったほうがいい。人相書きやブラックリストなどのツールも、横のつながりがあって初めて有効に活用できるのである。 そういう防犯手段が使えない中で、店舗間をまたぐ万引き犯罪(万引きしたものを他店で転売)をいかにして防いでいくか、課題が残る。

2008年、50代後半の男性が複数の中古レコード店舗間で、万引きと転売行為を繰り返していたという、前代未聞の事件が、実際にあった。 ネットワークがないため、完全終結までに数か月という時間を要してしまった。札幌の中古レコード業界を騒がせたこの事件の詳細な内容については、また別の機会にしっかりと書いていきたいと思う。(了)


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