中古レコード、CDの買取や販売について、また日々の経営について、考えたこと、伝えたいこと、などいろいろ書いていきます。月に1~2回、更新していく予定です。
在庫確認で中古レコード店に電話で問い合わせすると断られるのは、なぜか?
更 新:2023-06-30
テーマ:聴き方・選び方・買い方
お客さんの問い合わせに答えられない中古レコード店側の事情とは何か。またお客さんの、そのさいの電話問い合わせのコツやマナーについても解説する。
<目次>
❶電話で在庫確認の問い合わせをすると、高い値段を言う店がある。
❷在庫の確認に応じない、店主の言い分。
❸店に歓迎される電話の掛け方。
❹在庫確認を有料化するという考え方もある。
❺まとめ。普通の来店客と電話のお客では、価格が異なっていてもかまわないか?
______________________
❶電話で在庫確認の問い合わせをすると、高い値段を言う店がある。
中古レコードと古書を扱うA店での話。ここの先代の店主は、商売上手で有名だ。あるとき、
この店に「ピンクレディーの〇〇というLPはありますか?」という電話がかかってきた。
70代の老店主は受話器を置き、記憶をたどりながら、取り合えず安売り用の段ボール箱を探してみる。やはりあった!ピンクレディーの○○が、1枚出てきたのだ。状態もまずまずだ。老店主は再度受話器を取ると、弾んだ声で
「え~と、ピンクレディーの〇〇、ありましたよ~! 値段は2000円になりますが・・・」
さて皆さん、お気付きになっただろうか?老店主が在庫を探し出したのは、安いダンボール箱だったということを。当時の相場では、床のダンボール箱は500円の均一だ。
つまりこの店主は、500円の安いレコードを、電話の主に2000円の高値で売ろうとしたわけである。
この店主は、大のベテラン。手八丁に口八丁だ。商売上手と言われる所以である。(※この店主は、現在はいない)
「なんて、ひどい店なんだ!」きっとあなたは、憤慨するに違いない。真面目で潔癖症の日本人は、こういうことには敏感だ。しかし、である。
私の判定では、この行為はぎりぎりだが、一応セーフだと言っておきたい。
私の店は、電話でこの種の問い合わせが来ても、全部お断りをしている。仮に応じたとしても、こういう対応はしないだろう。私は正直であることをモットーに生きている。ではなぜ私が、この店主の肩を持つようなことを言うのか?
店には、お客さんの知り得ない様々な事情というものがある。当店を含め、
在庫確認の電話には応じていない店は、実際かなり多い。電話する人は、何も考えず、気軽に掛けてくる。しかし在庫を探す手間は意外に大変だ。一人でやってるような小さな店だと、かなり難しい。
では、いったい何が難しいのか。お客さんが在庫状況を知りたければ、どうしたら良いのか。先のA店のやり方は、本当に妥当なのか。それらについて、今回は考えていきたい。
❷在庫の確認に応じない店主の言い分。
店が在庫確認を嫌う理由は、いくつかある。
まず第一の理由として、店主が机を離れて店内をウロウロ探しまわっている間に、
万引きの危険性がある、
ということだ。たった1枚の在庫を探しているときに、何枚も盗まれたのでは話にならない。店主は不用意に席を離れるべきではない。
第二に、仮に商品在庫が見つかっても、
盤状態が良くないなどの理由で断られ、徒労に終わる場合があるということだ。この場合、探した時間だけでなく、状態の確認、電話のやり取りなどの、すべての時間が全部無駄になる。
苦労した分の労賃がもらえるわけでもない。実にバカバカしい限りだ。
第三に、商談が成立し、電話の主が「後で買いに行きます」と言っても、
本当に来るのかどうなのかはわからない、ということだ。「取り置き」全般について言えることだが、約束を守らない人がけっこういて、店が一方的にバカを見ることになる。私の経験では、来るか来ないかは五分五分だ。こんなことが何度も続くと、イライラしてこの仕事を辞めたくなる。ホテルの無断キャンセル問題と同様で、中古レコード店も
キャンセル料
を取ることを提案したい。
第四の理由。電話で在庫確認を積極的に受けると方針転換した場合、相当数のお客さんが来店せずに電話で済ませるようになるかもしれない。
その場合、
店の経営を抜本的に見直す必要もでてくるが、うまくいくという保証はない。
業務改革は常にリスクがある。賭けと言ってもよい。余程の確信がなければできることではない。
第五の理由。中古レコード店に限らず、
本来、商品価格というのは大切な「企業情報」だ。誰だかわからない相手に対して、無条件に教えてもよい、という性質のものではない。
たとえば、大型電器量販店や大型スーパーなどでは、ライバル店の従業員が価格調査に来る行為
(産業スパイ行為)
を、チラシなどでお断りしているところもあるぐらいだ。
第六、最後の理由だが、
電話で在庫を確認する人のほとんどは、本当のお客ではない、ということだ。私の経験でも、そういう人がその後、常連客になるというようなことは、ほぼないと言ってよい。
なぜそうなるのかというと、
そういう人は、目的の盤だけ買えればよいのであって、それさえ手に入ればもう中古レコード店には用はないからである。
本来のお客ではないと分かった以上、わざわざ時間を割いてまで相手をする必要はないし、店主もお人よしではない。
以上の理由によって、多くの常識ある中古レコード店では安易な問い合わせには応じていないのが普通である。もちろんこれは、
店主が親切かどうかということとは、全然関係がないのは言うまでもない。
❸店に歓迎される電話の掛け方。
中古レコード店の在庫を確認したければ、自分の足と目で確認するのが大原則であり、かつ、ベストなやり方だ。
実際レコードマニアは、ほぼ全員がそうしている。
反面、おおよその在庫状況だけでも電話で聞きたい、という気持ちもわからなくはない。私がお客の立場ならやはりそう思う。では、初めての店に電話をするさい、何をどう聞いたらよいのか?実は聞き方にもコツがあるのだ。
在庫に関しては、具体的でピンポイントな質問は、絶対にダメだ。
下手な聞き方をすると、店主はたちまち機嫌が悪くなり、中には怒り出す人さえいる。しかし、
おおよその在庫状況のアウトラインを尋ねるだけなら、それほど大きな抵抗はないと思う。積極的に答えてくれる店主もいるはずだ。
良い尋ね方の例としては「ロックのLPは、たくさんありますか?」とか、「昔のSP盤は、置いてますか?」というぐあいだ。これなら、店主も「ロックのLPなら、2000枚ぐらいあるよ」とか、「ハードロックは、力を入れてますよ」などと気軽に答えてくれる。
聞き方のコツは、店主がその場ですぐに答えられる質問に限定すること。
これが店に電話を掛けるさいの常識であり、マナーでもある。
では逆に、ダメな質問とはどういうものか。
例えば「ビートルズの、アビーロードというLPはありますか?」などというのは明らかに言い過ぎだ。具体的でピンポイント過ぎる。これだと、店主は答えようがないし、答えたとしても曖昧なことしか言えない。
先にも触れたように、昔の短気な店主なら、「在庫を知りたければ、自分で見に来なさい!」と、声を荒げて一括するだろう。くれぐれも、
固有名詞は、口にしないことだ。
❹在庫確認を有料化するという考え方もある。
しかしお客にしてみれば、やはりもっと詳しく聞きたいのは山々だ。私としても、そういうお客さんの要望にお応えする方法は、何かないものかと考える。まず考えられることは、
電話での在庫確認を有料化する、ということである。
店としては、手間暇かけて在庫の確認をしても、手数料がもらえない状況では、とてもやる気になるものではない。(誰だってそうだ!)そこで、例えば1000円のものなら1500円で販売する、というふうに
手数料を上乗せして販売するのだ。
理屈の妥当性とは裏腹に、問題は、実際にこれをやるのはかなり大変だということだ。店主が「在庫を確認するには、手数料がかかりますよ!」と言ったところで、ビックリされることはあっても、素直に了承する人がいるとは到底思えない。中には「なんだ、それはー!」と言って怒りだす人がいても不思議ではない。悪くすると店の評判もガタ落ちとなる。それなら、最初から何もしないほうがよい。
しかし店としては、売り上げを確保したい、という思いも当然ある。そこで、先のA店のように、何も言わずに高く売る、ということになる。
電話だから相手にはわからないし、無用なトラブルも避けることができる。
面倒なことは何一つない。良く解釈すれば、これこそが大人の知恵だと、言えないこともない。
もう一つの方法としては、在庫確認、取り置き、または試聴などの各種サービス料金を最初から売価に上乗せしておくというやり方がある。
相場が1000円のものなら、最初から1500円で値付けしておく。そのかわり、各種サービスを充実させるのである。ただ、これだと高くなり過ぎて、コアな常連客しか来店しなくなる。
❺まとめ。普通の来店客と電話でのお客さんでは、価格が異なっていてもかまわないか?
これまでの話がどうも腑に落ちない、という人は大勢おられるだろう。「なぜ、お客に言わず、勝手に値段を変えるのか!」ということだ。だが、ここでちょっと立ち止まって考えていただきたい。
「そもそも価格とは何ぞや?」ということだ。
これは商売をしたことにない人に、ちょっと説明したぐらいでわかることではない。たとえば、
ホテル予約のさい、なぜネット予約のほうが電話予約より安いのだろうか?また、日によって価格が全然違うのは何故なのか?
これについて正確に答えられる人は、どれぐらいいるだろうか。
結論を簡単にいうと、
価格とは、時と場合によって、または相手の信用によっても、変化する価値を、数字で表したもの、ということだ。株価がいい例だが、完全に固定化された価格というものは、この世に存在しない。
つまり、同じ商品であっても、Bさんに売る場合とCさんに売る場合、あるいは昨日と今日など、ケースバイケースで違っていてもよいということである。
多くの中古レコード店では今、ネット販売と店売りという「併売」が行われているのが実情だ。つまり、
同じ商品なのに、買い方によって違う価格になることもあるわけだ。
ホテルや航空券の予約などでもそうだが、ケースバイケースで価格が異なることは、今や常識。そんな時代を、我々は生きているのである。
また本来、商取引というのは、相手がその値段を了承すれば、それでよいのである。
冒頭のA店は、相手や状況に応じて、ふさわしい値段をつけているに過ぎない。
来店客と電話のお客さんとは「場」が違う。
店売りとネット販売でもそうだが、場が違えば、同じ値段である必要はないのである。(了)
次回以降の掲載予定。
■一見さんでも大丈夫!どんな人でも中古レコード店に堂々と出入りするマル秘攻略法はコレだ。
■店主が高齢化した中古レコード店は、結局どうなってしまうのか?人生後半、下り坂の歩き方と仕事じまいの考え方。
■未整理品の中古レコードを欲しいと言ったら、ビックリするほどの高い値段を言われてしまうのは何故?
■山下達郎のレコードは、何故こんなに値上がりしたのか?最近の国際相場のビックリ事情!
※以上、順不同です。次回の掲載は9月中旬予定です。
過去の関連記事