中古レコード、CDの買取や販売について、また日々の経営について、考えたこと、伝えたいこと、などいろいろ書いていきます。月に1~2回、更新していく予定です。
山下達郎のレコードは、なぜこんなに高くなったのか???
更 新:2023-08-31
テーマ:音楽、ミュージシャン
70年代後半に登場した、シティーポップを代表するミュージシャンの一人、山下達郎の中古レコードが、今世界的に売れている。世界のレコード事情とアメリカ人の音楽性から、その理由について考える。
<目次>
❶山下達郎のレコードは、昔は安かった!
❷外国人が日本のレコードの相場を押し上げた。
❸世界が認め山下達郎の音楽性とは何か。
❹サザンオールスターズや長渕剛では、なぜダメなのか?
❺Jポップ全体が、欧米で受け入れられる日が来るか?
_____________________
❶山下達郎のレコードは、昔は安かった!
山下達郎のレコードが随分と高くなった。売価は普通のLPでも3000円以上、レア盤で一万円以上だ。
以前からこんなに高かったわけではない。ここ数年の現象で、昔からのお客さんは今の値段に皆びっくりしている。
山下達郎のものは一部を除きほとんどが定番だ。特に珍しくなかったから、昔はどこの店でも安く売っていた。それがまさか、わずか数年でこの大ブレーク、こんなことになろうとは。世の中、変われば変わるものである。
❷外国人が、日本のレコード相場を押し上げた。
では、なぜこんなに値上がりしたのか。
その原因は海外のレコード人気にある。
欧米では、10年以上も前からレコードブームがずっと続いており、今ではCDよりアナログレコードのほうが売り上げが多いのだという。
欧米には及ばないが、日本でもいちおうレコードブームと言われている。
確かにこの数年、ロックやJポップなどが軒並み値上がりしている。
だがこれは、外国人による爆買いの影響が大きい。
なにしろ日本で1000円程度の平凡なレコードが、欧米では3000円~5000円もの値段で売れるのだから。
急激に値上がりしているレコードは、欧米の相場に影響されている可能性が大いにあるのである。
たとえば昔、ハードロックは、日本ではあまり人気がなかった。ロックはビートルズの流れをくむものがメインストリーム。ハードロックやプログレは脇の存在でしかなかったからだ。一方、欧米ではハードロックは大人気だ。日本の高品質のハードロックのレコードは、
外国人バイヤー(商売人)
から見たら、まさに宝の山。安く売られていたから、当然ながら、次々と外国人に爆買いされ、今では日本人にはとても手が出ないような高級品になってしまった。
日本の80年代のシティポップといわれるジャンルが、近年、海外で人気が高まってきた。山下達郎も、欧米で評価の高い日本人ミュージシャンの一人、というわけだ。
❸世界が認めた山下達郎の音楽性とはなにか。
日本の音楽は、アジアでもすでに大変な人気であることは今や常識だが、欧米ではほとんど受け入れてもらえなかった。日本やアジアでどんなに人気があっても、アメリカで人気が出るなどということは、ほぼなかった。
古くは布施明や松田聖子、近年では宇多田ヒカルなど、これまでも何人かの日本の有名歌手がアメリカ市場でチャレンジしたが、なかなか成功までは至らなかった。(少年ナイフのように、日本で無名だったミュージシャンがアメリカで先に成功した例はあるが、これは例外)成功したと言えるのはヨシキとかパフィーなど、少数にとどまっている。
そもそもアジアと、アメリカなどでは、音楽の土壌が全く違う。
日本やアジアは、湿気を伴ったウェットなメンタリティの国民性、同じアジア人だという意味でも、共感できる部分はある。しかし、アメリカ人は全く異質だ。アジア各国で空前の大ヒットを記録した
谷村新司の「昴」が、アメリカで売れるとは、到底思えない。では、山下達郎の音楽は何故、アメリカで受けいれられているのだろうか。谷村新司になくて、山下達郎にあるものは、いったい何なのだろう。
山下達郎の音楽は乾いている。初期のヒット曲「ride on time」では、どこまでも自由で伸びやかな空気感、広大な海の風景を感じさせる。まるでサーフィンをしているかのような感覚がある。抜群の歌唱力もさることながら、クオリティーの高さ、明るくカラッとした楽曲が、アメリカ人に受け入れられている理由だろう。
そもそもこういう音楽は、それまでの日本には全くなかった。暗くじめじめした抒情的な音楽が、それまでの主流だったのだ。
日本の音楽とは、そういうものだと皆が思っていた。
それが70年代後半~80年代に入ってから、変わってきた。明るく伸びやかな歌声を響かせる音楽が多くなってきたのだ。
山下の他では、大橋純子、八神純子、チューブなどがそうだ。逆に暗くジメジメしたフォーク調の歌は、まるで潮が引いたように衰退していく。
❹サザンオールスターズや長渕剛では、なぜダメなのか?
私の知人に、海外と取引しているレコードのネット通販ショップをやっている人がいる。あるとき、彼になぜ山下達郎が向こうで売れるのか、サザンや長渕ではなぜだめなのかと聞いたことがある。私にとっては、山下もサザンも大した変わりがなかった。山下がいいのなら、サザンや長渕、あるいはチャゲアスやユーミンなども、当然ながら海外で高値でドンドン売れてもいいのではと思っていたからだ。ところが、彼が言うには、サザンや長渕などではだめなのだという。なぜなのか。
まず、山下達郎は、英語の歌詞の曲を数多く歌っている。当然、欧米にも通じやすい。
(サザンの英語モドキとは違う)
また、山下達郎などの、
いわゆる「シティーポップ」のバック演奏には、ジャズ・フュージョンをやってる人たちが入っていて、ここが決定的に違うのだという。
だからシティーポップは、欧米で受け入れられているのだと。
❺Jポップ全体が、欧米で受け入れられる日が来るか?
私にはシティーポップの正式な定義はわからないが、レコードが世界で高値で取引されているのは事実である。そこでもう一歩踏み込んで、日本の音楽全体が、もっと幅広く世界に受け入れられるようにならないだろうか。
世界の大きな流れでいうと、今は大変な日本ブームである。
日本の海外でのイメージはというと、私が若かったころは「フジヤマ」「ゲイシャ」などが定番で、日本では「侍」や「忍者」が今でも普通に歩いている国だと思われていた。だが現在は日本のイメージも相当大きく変わった。古い日本の伝統文化に加え、アニメやファッションなどの若者文化にも大きな焦点があてられている。
日本を訪れる観光客は激増し、ネット上では「日本の文化」が毎日のように世界中に発信され続けている。そして日本の音楽についてもまた、当然ながら紹介されているはずである。
近い将来、日本の音楽がもっと世界に広く浸透していくであろうことは、必然のように思えるがどうだろう。(了)
次回以降の掲載予定!
■一見さんが、敷居の高い店に堂々と出入りできる方法とは?
■山下達郎は、なぜカラオケが嫌いなのか。
■没後5年。西城秀樹のレコードは、なぜ今だに売れるのか!
■中古レコード店や古書店に、女性店主が少ないのは何故か?
※以上、順不同。次回の掲載は、10月上旬の予定です。
過去の関連記事